お正月のおせち、節分の恵方巻き、冬至のかぼちゃ。こうした「行事のときに食べる特別な料理」を、まとめて行事食(ぎょうじしょく)と呼びます。何気なく口にしているけれど、それぞれにきちんと意味や願いが込められているのをご存じでしょうか。
この記事では、行事食とは何かという基本から、料理に込められた由来、そして1月から12月までの行事食を一覧でわかりやすく紹介します。季節の節目をもっと楽しむヒントとして、ぜひ役立ててください。

行事食とは?意味をわかりやすく解説
行事食とは、季節ごとの行事やお祝いの日に食べる特別な料理のことです。旬の食材や縁起のよい食べ物を使い、家族の健康や幸せを願う気持ちが込められています。まずは読み方や、年中行事との関係から見ていきましょう。
日本の食卓は、古くから「ハレ」と「ケ」に分けてとらえられてきました。ハレは行事やお祝いの特別な日、ケはふだんの日を指します。行事食は、このハレの日のために用意される料理にあたります。ふだんは使わない材料や、手間のかかる調理が選ばれるのもそのためです。
行事食の読み方と基本的な意味
行事食は「ぎょうじしょく」と読みます。お正月や節分、ひな祭りといった季節の行事に合わせて用意される料理を指す言葉です。
古くから日本では、季節の節目に旬の食材を神様にお供えし、作物の豊作や家族の無事を願う風習がありました。そのお供えを人々が分け合っていただいたことが、行事食のはじまりとされています。ただおなかを満たすためではなく、願いや祈りを込めて食べるのが大きな特徴です。
「行事食」という言葉は、料理1品だけを指すこともあれば、その日の献立全体を指すこともあります。おせち料理のように、何品もそろえて一つの行事食と呼ぶ使い方が代表例です。
行事食は、必ずしも豪華な料理とはかぎりません。かゆや団子のように、材料も作り方も簡素なものが長く受け継がれてきた例も多くあります。特別さは値段ではなく、その日に食べるという約束ごとから生まれます。
年中行事との関係
行事食は「年中行事」と切り離せない関係にあります。年中行事とは、毎年決まった時期にくり返しおこなわれる行事のこと。お正月やお盆、節句などがこれにあたります。
こうした行事のひとつひとつに、ふさわしい食べ物が結びついています。たとえば桃の節句にはちらし寿司、端午の節句には柏餅といった具合です。行事と食はセットで受け継がれ、季節の移ろいを食卓から感じさせてくれます。
年中行事は、暦の節目・農作業の区切り・仏教の行事といった流れが重なってできています。田植えや収穫の時期に行事が集中しているのは、農作業の区切りが暮らしの節目そのものだったからです。
農林水産省は「和食」の特徴を4つ挙げています。そのひとつが「正月などの年中行事との密接な関わり」です。和食は2013年にユネスコ無形文化遺産へ登録されました。行事食は、その和食を形づくる一部として数えられているわけです。

「決まった日に決まったものを食べる」のは、季節を体で覚える昔ながらの知恵なんですね。
行事食に込められた願い・由来
行事食に登場する料理の多くには、共通する「願い」が込められています。なぜその食べ物なのかという由来は行事によってさまざまですが、大きく分けると健康を願うものと豊かさ・縁起を願うものに整理できます。代表的な例を見てみましょう。
行事食の由来は一様ではありません。中国から伝わった風習がもとになったものと、日本の農耕儀礼から育ったものが混じっています。後の時代に商いや流行のなかで広まり、定着した料理もあります。願いの形が似ていても、たどってきた道のりは行事ごとに違います。
無病息災・健康を願うもの
一年を健やかに過ごせるようにという願いは、行事食にもっともよく登場するテーマです。お正月明けの七草がゆは、春の若菜を食べて一年の無病息災を祈るとともに、ごちそう続きで疲れた胃をいたわる意味も持っています。
冬至のかぼちゃも同じ流れです。栄養をたくわえた野菜を食べ、寒い冬を元気に乗り切れるようにという願いが込められています。こうした料理は、季節の変わり目に体を気づかう昔の人の工夫が形になったものといえます。
健康を願う行事食には、食べ物の名前や音に願いを重ねたものもあります。冬至に「ん」のつく食材を選ぶ風習は、その代表として広く知られています。
行事が置かれている時期にも意味があります。梅雨どきや真夏、冬の入り口といった体調をくずしやすい節目に、体をいたわる料理が並びます。暦の上の節目と、体の負担が大きくなる時期は重なっているのです。
健康を願う行事食の例
- 七草がゆ(人日の節句)…無病息災と胃を休める
- かぼちゃ(冬至)…冬を元気に乗り切る
- うなぎ(土用の丑の日)…夏バテをのりきる
五穀豊穣・子孫繁栄・縁起を願うもの
豊かな実りや家族の繁栄を願う行事食も多くあります。おせち料理はその代表で、まめに働けるようにと願う黒豆、子孫繁栄を願う数の子など、ひとつひとつの料理に縁起のよい意味が込められています。
お月見の団子は、収穫への感謝と豊作の祈りを表したもの。端午の節句のちまきや柏餅にも、子どもの健やかな成長を願う気持ちが託されています。料理の由来を知ると、行事食がぐっと味わい深く感じられます。
縁起を願う行事食には、形やいろどりに意味を重ねたものもあります。丸い形に円満を、赤い色に魔よけを重ねる考え方は、供え物や祝いの膳に広く見られます。
供えてから食べる、という順序も大切にされてきました。神仏や先祖に供えた食べ物を分け合うことで、願いが家族に行きわたると考えられてきたためです。一度に多くの品を並べるのも、豊かさを目に見える形にする工夫といえます。
行事食一覧【1月〜6月】
ここからは、一年の行事食をカレンダー順に一覧で紹介します。まずは新年から梅雨どきまで、1月から6月の行事食です。気になる行事はそれぞれの詳しい記事もあわせてご覧ください。
上半期は、年のあらたまりと子どもの成長を願う行事が軸になります。表には行事名と時期、主な行事食、込められた願いの4点を並べました。時期は目安で、地域や家庭によって前後することがあります。日付が決まっている行事と、年ごとに動く行事が混じっている点にも気をつけてください。


1〜3月の行事食
年のはじまりは行事食が特に豊富な時期です。新年を寿ぐおせちから、春の節句まで、彩りゆたかな料理が続きます。
| 行事 | 時期 | 主な行事食 | 込められた願い |
|---|---|---|---|
| お正月 | 1月1日〜 | おせち・お雑煮 | 豊作・健康・繁栄 |
| 人日の節句 | 1月7日 | 七草がゆ | 無病息災 |
| 鏡開き | 1月11日ごろ(関西は15日・20日ごろ) | おしるこ | 一年の幸せ |
| 節分 | 2月3日ごろ | 恵方巻き・福豆 | 厄除け・福を呼ぶ |
| 桃の節句 | 3月3日 | ちらし寿司・はまぐりのお吸い物 | 女の子の健やかな成長 |
| 春のお彼岸 | 3月中旬〜下旬 | ぼたもち | ご先祖への感謝 |
1月は行事が集中する月です。おせちで新年を迎え、七草がゆで胃を休め、鏡開きで供えた餅をいただく流れが続きます。年始の食卓は、行事食だけで半月ほど埋まる形になります。
おせちが日持ちのする味つけで作られてきたのは、正月に台所仕事を減らすためです。煮しめや酢の物が並ぶのは、保存がきくことと材料をそろえやすいことの両方によります。
節分の福豆は、年の数だけ食べる習わしが広く知られています。恵方巻きは太巻きを切らずに食べる形が特徴で、縁を切らないという意味が重ねられています。
桃の節句のちらし寿司やはまぐりには、女の子の幸せを願う意味が込められています。由来やひな祭りとの違いは、こちらの記事でくわしく解説しています。


4〜6月の行事食
春から初夏にかけては、子どもの成長を願う節句や、季節の節目をいわう行事が並びます。新緑の季節らしい、すがすがしい行事食が登場します。
| 行事 | 時期 | 主な行事食 | 込められた願い |
|---|---|---|---|
| 花まつり | 4月8日 | 甘茶 | お釈迦さまの誕生を祝う |
| 端午の節句 | 5月5日 | 柏餅・ちまき | 男の子の健やかな成長 |
| 夏越の祓 | 6月30日 | 水無月(和菓子) | 半年の厄落とし・無病息災 |
花まつりの甘茶は、お釈迦さまの像に注いでからいただく飲み物です。アマチャの葉を煎じたもので、砂糖を加えなくても甘みがあります。
端午の節句には、柏餅やちまきのほかに、たけのこや出世魚を食卓に並べる家庭もあります。まっすぐ伸びる、名前が変わって出世するといった成長の願いが重ねられています。
6月30日の夏越の祓でいただく水無月は、ういろう生地に小豆を散らした和菓子です。三角の形を氷に見立て、小豆で厄をはらう願いを込めた菓子として親しまれています。
5月や6月には、ほかにも季節の行事が多くあります。月ごとの行事と行事食をまとめて知りたい方は、次の記事もどうぞ。


五節句という枠組みから並べ直すと、上半期の行事食のつながりが見通しやすくなります。節句ごとの食べ物を早見表にした記事も用意しています。


行事食一覧【7月〜12月】
続いては、夏から年末までの行事食です。七夕やお盆、お月見、冬至など、季節感あふれる行事と料理が続きます。一年の締めくくりまで一覧で見ていきましょう。
下半期は、暑さをしのぐ工夫と、実りへの感謝が軸になります。夏は食が細りやすい時期にあたるため、のどを通りやすい料理が選ばれてきました。秋から冬にかけては、収穫物と保存のきく食材が食卓に上がります。行事の日取りは、地域によって1か月ずれることもあります。


7〜9月の行事食
夏は涼を感じる行事食や、ご先祖を迎えるお盆の料理が中心です。秋に入ると、収穫の恵みに感謝する行事食が登場します。
| 行事 | 時期 | 主な行事食 | 込められた願い |
|---|---|---|---|
| 七夕 | 7月7日 | そうめん | 無病息災・健康 |
| 土用の丑の日 | 7月下旬ごろ | うなぎ | 夏バテ予防・暑気払い |
| お盆 | 8月13〜16日ごろ | 精進料理・おはぎ | ご先祖の供養 |
| 十五夜(お月見) | 9〜10月ごろ | 月見団子・里芋 | 収穫への感謝・豊作祈願 |
七夕にそうめんを食べる習わしは、中国から伝わった索餅(さくべい)という小麦の菓子にさかのぼります。細く白い形を天の川や織り糸に見立てる見方も、後から重ねられてきました。
夏の行事食には、冷やして食べる料理が目立ちます。暑さで食が進まないこの時期に、のどごしのよい麺や汁物が選ばれてきたためです。台所に長く立たずに用意できる点も、暑い季節に合っています。
十五夜では、団子だけでなく里芋を供える地域もあります。
お盆の時期や地域ごとの違い、十五夜のくわしい楽しみ方は、それぞれの記事でまとめています。




十五夜の支度でいちばん迷いやすいのが、団子まわりの決めごとです。その点だけを掘り下げた記事も別にあります。


10〜12月の行事食
秋から冬は、実りに感謝し、一年の締めくくりに向かう行事食が並びます。年末の大晦日まで、季節の節目を食卓で感じられます。
| 行事 | 時期 | 主な行事食 | 込められた願い |
|---|---|---|---|
| 十三夜 | 10月ごろ | 栗・豆・月見団子 | 収穫への感謝 |
| 冬至 | 12月22日ごろ | かぼちゃ・小豆がゆ | 無病息災・厄除け |
| クリスマス | 12月25日 | ケーキ・チキン | 家族で祝う |
| 大晦日 | 12月31日 | 年越しそば | 長寿・新年への願い |
十三夜は、十五夜のあとにもう一度めぐってくる月見の日です。栗や豆を供える習わしがあり、秋の実りに重ねて感謝する行事にあたります。
冬至の小豆がゆは、赤い色で厄をはらう意味を重ねた料理です。かぼちゃと小豆を合わせて煮る食べ方が残る地域もあります。
クリスマスのケーキやチキンは、日本で独自に定着した行事食といえます。古くから続く行事食と並んで、新しい行事食が暮らしのなかで加わってきたことがわかります。
大晦日に食べる年越しそばには、そばのように細く長く生きられるよう、という長寿の願いが込められています。一年の終わりを締めくくる、大切な行事食のひとつです。
行事食を楽しむときのポイント
行事食は、特別なごちそうを用意しなくても楽しめます。大切なのは、料理に込められた願いを思いながら季節を感じること。もっと身近に楽しむためのポイントを2つ紹介します。
行事食でつまずきやすいのは、準備の量です。全品そろえようとすると負担が大きくなり、翌年から遠のいてしまいます。一品だけと決めてしまえば、毎年くり返すのは難しくありません。買い物のメモを前日に作るだけでも、当日の慌ただしさは変わります。
旬の食材を取り入れる
行事食には、その季節に出回る旬の食材が多く使われます。旬のものは味がよく、栄養も豊富です。冬至のかぼちゃ、お月見の里芋のように、季節の野菜を一品加えるだけで、ぐっと行事らしい食卓になります。
すべてを手作りする必要はありません。市販のおはぎやお団子を用意するだけでも、十分に季節の行事を味わえます。無理なく続けられる形で取り入れるのがおすすめです。
旬の食材は出回る量が多いため、価格が下がりやすいという利点もあります。行事の数日前には専用の売り場ができることも多く、探す手間はほとんどかかりません。
和菓子や総菜は、行事の当日を待たずに売り切れることがあります。人気の品をねらうなら、予約を受け付けているかどうかを先に確認します。旬の野菜なら、行事とは関係のない普段の献立にもそのまま使えます。
地域ごとの違いも楽しむ
行事食には、全国共通の定番がある一方で、地域によって受け継がれてきた独自の料理もあります。お雑煮の味つけや具材が地方ごとに大きく異なるのは、その代表例です。



同じ行事でも、家庭や土地によって食べるものが違うのも、行事食のおもしろさです。
実家や祖父母の家の行事食を思い出してみると、わが家ならではの味が見つかるかもしれません。地域や家族の違いも、行事食を楽しむ魅力のひとつです。
地域差は、雑煮のように味つけで表れるものばかりではありません。供える品数や日取りが土地によって違うこともあります。引っ越しや結婚を機に、初めて差に気づく人も少なくありません。
違いに出会ったら、両方を食卓に並べてみる手もあります。味くらべそのものが、その年の行事の話題になります。祖父母の世代に作り方を聞いておくと、理由まで一緒に受け継げます。
学校給食に登場する行事食と食育
行事食は家庭だけのものではありません。学校給食でも、行事に合わせた献立が組まれることがあります。学校給食法の第2条は、給食で達成すべき目標を並べています。そのひとつが「我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること」です。
文部科学省の「食に関する指導の手引(第二次改訂版)」では、献立そのものを教材として活用する考え方が示されています。季節の行事や地域の食文化を、実際に食べる体験を通して学ぶという位置づけです。給食だよりや献立表に行事の由来が書き添えられるのも、この考え方につながっています。
献立は自治体や共同調理場ごとに作られるため、行事の日の中身は一律ではありません。地元の産物を組み込んだ献立が選ばれることもあります。子どもが「今日は何の日か」を持ち帰ってきたら、家の食卓とつなげる手がかりになります。
給食で行事食が出る日は、家の献立を重ねないようにする手もあります。同じ料理が一日に二度続くと、せっかくの特別感が薄れてしまいます。献立表を見て、前後の日にずらすだけで十分です。
行事食に関するよくある質問
- 行事食と精進料理はどう違いますか?
-
行事食は季節の行事やお祝いの日に食べる料理全般を指します。一方、精進料理は肉や魚を使わない料理のことで、お盆やお彼岸などの行事食として用いられることがあります。精進料理は行事食の一種ともいえます。
- 行事食は必ず手作りしないといけませんか?
-
そんなことはありません。市販のおせちや和菓子を活用しても、行事を楽しむ気持ちは変わりません。大切なのは、季節の節目に行事食を囲み、込められた願いに思いをはせることです。
- 行事食を子どもに伝えるにはどうすればいいですか?
-
食べるときに「なぜこれを食べるのか」を一言そえるだけで十分です。たとえば「長生きできますようにと願って年越しそばを食べるんだよ」と話すと、由来とともに記憶に残りやすくなります。
- 行事食と郷土料理はどう違いますか?
-
行事食は「いつ食べるか」で決まる料理、郷土料理は「どこで食べるか」で決まる料理です。農林水産省のデータベース「うちの郷土料理」は、その土地の食材と調理法で受け継がれてきた料理を集めています。同じ行事の料理でも、土地の材料や作り方で残っていれば郷土料理としても扱われます。
- 行事食は旧暦と新暦のどちらの日付で食べますか?
-
いまの日本では、新暦のカレンダーどおりの日付で用意するのが基本です。旧暦の行事をそのまま新暦にあてはめたため、季節感が1か月ほど早まっている行事もあります。地域によっては1か月遅らせた「月遅れ」で行う例もあり、迷ったときは土地の習わしを優先して差し支えありません。
まとめ
行事食とは、季節の行事やお祝いの日に食べる特別な料理のこと。そのひとつひとつに、健康や豊かさ、家族の幸せを願う気持ちが込められています。
この記事のまとめ
- 行事食は年中行事と結びついた、願いを込めて食べる料理
- 由来は「無病息災」と「五穀豊穣・縁起」に大きく分けられる
- 1月のおせちから12月の年越しそばまで、一年を通じて楽しめる
- 旬の食材や地域の違いも、行事食の魅力
- 日付は新暦が基本で、地域によって月遅れで行う行事もある
- 学校給食でも行事食が出され、伝統的な食文化を学ぶ機会になっている
行事食は、日付と料理と願いが結びついて一つの形になっています。表を見返すときも、この結びつきを手がかりにすると全体像がつかめます。
由来を知って食べる行事食は、季節をより豊かに感じさせてくれます。今年は身近な行事食から、ひとつ取り入れてみてはいかがでしょうか。




















