朝の草に降りた露が白く光り、夕方には虫の声が近くなる。9月は、夏の名残と秋の気配が日ごとに入れ替わっていく月です。
そんな細やかな季節の移ろいを、5日きざみで言葉にしたものが「七十二候(しちじゅうにこう)」です。9月には、稲穂が実る候から、虫が土にもぐる候まで、6つの候が順に巡ります。
この記事では、9月の七十二候それぞれの読み方・意味・2026年の日付を、暦の順にたどっていきます。手紙の書き出しや、季節を味わうヒントとしても使える内容にまとめました。
9月の七十二候とは|処暑の終わりから秋分までを巡る
9月の七十二候は、二十四節気の「処暑(しょしょ)」の終わりから「白露(はくろ)」を経て、「秋分(しゅうぶん)」の半ばまでを巡ります。暑さが引いて、露や虫、渡り鳥といった秋のしるしが次々に登場するのが特徴です。
そもそも七十二候とは
七十二候は、1年を72に分けた暦のことです。もとは古代中国で生まれ、日本の気候に合わせて何度か作り替えられました。現在よく使われているのは、明治7年(1874年)の暦「略本暦」に掲載された七十二候で、これは江戸時代の暦学者・渋川春海らが日本の気候に合わせて改訂した「本朝七十二候」の流れをくむものです。
二十四節気との関係は、入れ子の構造になっています。1年を24に分けたものが二十四節気で、その1つ(約15日)をさらに3つに分けたものが七十二候です。ひとつの候は、およそ5日間しかありません。
9月は6つの候が移り変わる
暦の上で9月中に始まる候は、全部で6つあります。内訳は、処暑の末候が1つ、白露の3候、そして秋分の初候と次候の2つです。
秋分の末候にあたる「水始涸」だけは10月に入ってから巡るため、この記事では最後に触れる程度にとどめます。
9月の七十二候は「実り → 露 → 渡り鳥 → 雷の終わり → 虫の冬支度」という順に進みます。この流れをつかむと、6つの候が一本の物語として覚えられます。
9月の七十二候 一覧表【2026年の日付つき】
2026年の日付を入れた一覧が下の表です。白露は9月7日、秋分は9月23日から始まります。
| 候 | 読み方 | 属する節気 | 2026年の期間 |
|---|---|---|---|
| 禾乃登 | こくものすなわちみのる | 処暑・末候 | 9月2日〜9月6日ごろ |
| 草露白 | くさのつゆしろし | 白露・初候 | 9月7日〜9月11日ごろ |
| 鶺鴒鳴 | せきれいなく | 白露・次候 | 9月12日〜9月16日ごろ |
| 玄鳥去 | つばめさる | 白露・末候 | 9月17日〜9月22日ごろ |
| 雷乃収声 | かみなりすなわちこえをおさむ | 秋分・初候 | 9月23日〜9月27日ごろ |
| 蟄虫坏戸 | むしかくれてとをふさぐ | 秋分・次候 | 9月28日〜10月2日ごろ |

処暑・白露の候|9月2日〜9月22日ごろ
9月前半は、実りと露が主役になります。夏の暑さが緩み、朝晩の空気がはっきりと変わっていく時期です。
末候 禾乃登(こくものすなわちみのる)
処暑の最後の候で、2026年は9月2日ごろから始まります。「禾」は稲や粟などの穀物をまとめて指す漢字で、その穂が実って頭を垂れるころ、という意味です。
田んぼが少しずつ黄金色に染まり、早い地域では稲刈りの支度が始まります。一方でこの時期は台風が多く、農家にとっては実りを守る緊張の日々でもあります。立春から数えて210日目の「二百十日」も、ちょうどこの候の入り口に重なります。

「禾」って、稲のことだったんだ。穂が垂れる形からきた漢字なんだね。
初候 草露白(くさのつゆしろし)
白露の始まりを告げる候で、2026年は9月7日ごろからです。草に降りた露が、朝の光を受けて白く光って見えるころを表します。
「白露」という節気の名前は、この情景がそのまま由来になっています。昼と夜の気温差が大きくなると、空気中の水分が草の上で結露します。露は、秋が始まったことを目で確かめられるサインなのです。
ちなみに、古代中国の五行思想では秋に「白」の色が配されます。「白秋」「白露」といった言葉に白が使われるのは、この考え方の名残です。
次候 鶺鴒鳴(せきれいなく)
2026年は9月12日ごろから。水辺を歩きながら、長い尾を上下にふるセキレイが鳴き始めるころです。
セキレイは川原や公園でもよく見かける身近な鳥で、チチッ、チチッと澄んだ声で鳴きます。実際には秋以外にも鳴きますが、虫の声にまじって聞こえるこの時期の鳴き声は、ひときわ秋らしく感じられます。
この鳥には「恋教え鳥」という古い異名もあります。日本書紀の神代の一書に、イザナギとイザナミがセキレイの動きを見て夫婦の道を知ったという話が伝わることに由来します。
末候 玄鳥去(つばめさる)
2026年は9月17日ごろから、白露の締めくくりとなる候です。春に日本へやってきたツバメが、南の越冬地へ帰っていくころを指します。
「玄鳥」はツバメの別名です。「玄」は黒を意味し、背中の黒い羽の色をそのまま名前にしています。
この候は、春の「玄鳥至(つばめきたる)」と対になっています。来て、去る。同じ鳥の往復で半年を挟むところに、七十二候の粋な作りが表れています。軒下の巣が空になっているのに気づいたら、それがこの候のしるしです。
秋分の候|9月23日〜10月上旬
秋分を境に、七十二候の主役は「音」と「気配」に移ります。夏の間にぎやかだったものが、静かに退場していく候が続きます。
2026年の秋分は9月23日(水・祝)です。この日を中日として、9月20日から26日までが秋のお彼岸にあたります。
初候 雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)
秋分の始まりとともに巡る候で、2026年は9月23日ごろからです。夏の間に鳴り響いた雷が、声をおさめて鳴らなくなるころ、という意味になります。
入道雲とともにやってくる夕立の雷は、夏の空気が持つ強いエネルギーが生むものです。大気が落ち着くにつれて、その回数は減っていきます。
この候にも対になる候があります。春分の初候「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」です。雷が声を発する春分と、声をおさめる秋分。昼夜の長さが等しくなる2つの日に、正反対の候が置かれています。


次候 蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)
2026年は9月28日ごろから、9月最後の候です。虫たちが土の中にもぐり、入り口をふさいで冬ごもりの支度に入るころを表します。
「坏」は、土でふさぐという意味を持つ漢字です。にぎやかだった虫の声が、日を追うごとに細くなっていく時期と重なります。
こちらは3月の啓蟄の初候「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」と対になる候です。戸を開けて出てきた虫が、半年かけて再び戸を閉じる。七十二候には、こうした呼応があちこちに仕込まれています。
末候 水始涸(みずはじめてかる)※10月初旬
2026年は10月3日ごろからで、暦の上では10月の候になります。稲刈りに備えて田んぼの水を抜き、地面を乾かすころ、という意味です。
禾乃登で実り始めた稲が、ここで収穫を迎えます。9月の候を追いかけてきた目には、ひと月の流れがきれいに閉じるのが見えるはずです。
9月の七十二候を暮らしに取り入れるヒント
七十二候は、知識として覚えるより、手紙や食卓に少しだけ持ち込むほうが楽しめます。難しい準備は必要ありません。
時候の挨拶・手紙に使う
候の名前は、そのまま手紙の書き出しに使えます。漢語調なら「白露の候」「秋分の候」、やわらかく書くなら候の情景を言葉にする形がおすすめです。
草の露が白く光る季節となりました。お変わりなくお過ごしでしょうか。(9月上旬)
軒先のつばめも姿を消し、秋の深まりを感じるころとなりました。(9月中旬)
夕立の雷も遠ざかり、虫の声が日ごとに静かになってまいりました。(9月下旬)
相手が季語に詳しくなくても、情景が浮かぶ書き方なら気持ちが伝わります。上旬・中旬・下旬で使い分けたい場合は、こちらの記事もあわせてどうぞ。


旬の食材・季節の風物を楽しむ
禾乃登の名のとおり、9月は実りの月です。新米が出回り始め、秋刀魚、栗、ぶどう、梨、いちじくと、店先が一気ににぎやかになります。
草花では、萩やすすき、彼岸花が見ごろを迎えます。秋のお彼岸におはぎを供える習わしも、萩の花にちなんだものです。
2026年の十五夜(中秋の名月)は9月25日にあたります。虫が戸をふさぐ準備を始めるころに、月を眺めて実りに感謝する。9月の候と行事は、思いのほか地続きです。



候を1つ知っているだけで、いつもの散歩がちょっと変わりそう。


9月の七十二候に関するよくある質問
- 9月の七十二候はいくつありますか?
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9月中に始まる候は6つです。処暑の末候「禾乃登」、白露の3候、秋分の初候・次候という内訳になります。秋分の末候「水始涸」は10月3日ごろからのため、9月には入りません。
- 七十二候と二十四節気は何が違うのですか?
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分ける細かさが違います。1年を24に分けたものが二十四節気(1つあたり約15日)で、それをさらに3等分したものが七十二候(1つあたり約5日)です。七十二候は二十四節気の中に含まれる、より細かい区分です。
- 七十二候の日付が毎年変わるのはなぜですか?
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太陽の見かけの位置をもとに決められているためです。地球が太陽を一周する周期は365日ちょうどではないため、節気や候の始まる日は年によって1日ほど前後します。
- 9月の七十二候で覚えやすいものはどれですか?
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「玄鳥去(つばめさる)」がおすすめです。読み方がそのまま意味になっているうえ、春の「玄鳥至(つばめきたる)」と対になっているため、セットで記憶に残ります。
まとめ|9月の七十二候で秋の深まりを味わう
9月の七十二候は、実る稲から始まり、白い露、鳴く鳥、去るツバメ、静まる雷、そして戸をふさぐ虫へと移っていきます。約5日ごとに景色が入れ替わる、密度の高いひと月です。
2026年の9月は、禾乃登(9月2日〜)、草露白(9月7日〜)、鶺鴒鳴(9月12日〜)、玄鳥去(9月17日〜)、雷乃収声(9月23日〜)、蟄虫坏戸(9月28日〜)の6候が巡ります。
候の名前をひとつ覚えて外に出ると、露の光り方や虫の声の量が、急に情報として立ち上がってきます。暦は眺めるものではなく、外の景色と答え合わせをするための道具です。
9月の節気そのものについては、下の記事で白露と秋分をくわしく解説しています。前月の候と行事もあわせてどうぞ。























