「電車の日」って何月何日だろう。カレンダーやSNSでこの言葉を見かけて、日付を確かめにきた方が多いのではないでしょうか。ところが調べてみると、8月22日、6月10日、5月2日と、出てくる日付がばらばらで戸惑ってしまいます。
この記事では、電車の記念日がなぜ複数あるのかを整理したうえで、それぞれの日付と由来、日本で初めて電車が走った日、そして混同されやすい別の記念日までを順にまとめます。
先に結論をお伝えすると、「電車の日」という名前で全国共通に定められた記念日はありません。かわりに、電車にまつわる記念日が日付ちがいでいくつも存在しています。どれか一つが正解というより、目的に応じて選ぶかたちの言葉だと考えると分かりやすくなります。
電車の日はいつ?全国共通の記念日はなく複数の日がある
「電車の日は◯月◯日です」と一言で答えることはできません。鉄道全体を対象にした10月14日の「鉄道の日」のように、国や全国組織が定めた「電車の日」が見当たらないためです。
そのかわり、電車に関係する記念日は次のように複数あります。「電車の日」を探して行き着く日付は、たいていこのどれかです。
| 日付 | 呼び名 | 由来 | 広がり |
|---|---|---|---|
| 8月22日 | チンチン電車の日 | 1903年、東京電車鉄道が新橋〜品川で営業運転を開始 | 全国的に知られる |
| 6月10日 | 路面電車の日 | 「ろ(6)でん(10)」の語呂合わせ。1995年に制定 | 全国 |
| 5月2日 | 電車の日(高知) | 1904年、土佐電気鉄道が高知で開業 | 高知の地域行事 |
| 10月14日 | 鉄道の日 | 1872年、新橋〜横浜で日本初の鉄道が開業 | 全国 |
| (5月4日) | 記念日ではない | 1890年、上野公園の博覧会で日本初の電車が公開運転 | 出来事の日付 |
「電車の日はいつ?」の答えは、全国共通の日はなく、8月22日・6月10日・5月2日などが目的別に使い分けられている、になります。
なぜ「電車の日」は一つに決まらないのか
日本の記念日の多くは、業界団体や企業がそれぞれの分野にちなむ日を定め、一般社団法人日本記念日協会などに登録することで広まっていきます。つまり記念日は「誰かが自分の分野のために作るもの」であることがほとんどです。
この観点で見ると、「電車」という言葉は守備範囲が広すぎます。通勤電車も路面電車も新幹線も含んでしまうため、特定の団体が代表して名乗りにくいのです。実際、鉄道全体はすでに「鉄道の日」が担い、路面電車という具体的な対象には「路面電車の日」があります。あいだにある「電車」だけが、まとめ役のいない言葉として残っているかたちです。
記念日が一つに定まらない例はほかにもあり、由来がちがう記念日が同じ名前で並び立つことは珍しくありません。

8月22日「チンチン電車の日」|東京に路面電車が走った日
電車の記念日のなかで、いちばん「電車の日」に近い感覚で語られるのが8月22日の「チンチン電車の日」です。語呂合わせではなく、実際の出来事がそのまま日付になっているタイプの記念日にあたります。
1903年、新橋〜品川で始まった東京の路面電車
1903年(明治36年)8月22日、東京電車鉄道の路面電車が新橋〜品川のあいだで営業運転を始めました。東京の街なかを電車が走った最初の日です。
それまで東京の市内交通を担っていたのは、線路の上を馬が客車を引く「馬車鉄道」でした。東京電車鉄道はその馬車鉄道を電化して生まれた会社で、動力が馬から電気に置き換わったのがこの日だったことになります。街の音も、馬のひづめから電車の走行音へと変わっていきました。
日本全体で見ると、東京は路面電車の後発組です。それでも記念日になったのは、首都の日常の足が電車に切り替わった節目だったためと考えられます。

なぜ「チンチン電車」と呼ばれたのか
「チンチン電車」は正式な名称ではなく、鐘やベルの音から生まれた愛称です。当時の路面電車は、発車や停車の合図に「チンチン」と鳴る鐘を使っていました。その音がそのまま呼び名になったわけです。
音の役割については、車掌が運転士へ発車の合図を送るためのものだったという説明と、道を歩く人に電車の接近を知らせるためだったという説明の両方が見られます。路面電車は自動車や歩行者と同じ道路を走るため、どちらの意味も実際に必要でした。
東京の路面電車は今どうなっている?
東京の路面電車は「都電」として最盛期には市内を網の目のように結んでいましたが、自動車の増加と地下鉄の整備が進むなかで、1960年代から1970年代にかけて路線の大半が姿を消しました。
現在、都営で残っているのは都電荒川線(東京さくらトラム)の一路線のみです。三ノ輪橋と早稲田を結び、沿線には下町の商店街やバラの植えこみが続きます。このほか、東急世田谷線も都内に残る軌道路線として親しまれています。
8月22日にあわせて特別なイベントが全国一斉に開かれるわけではありませんが、路面電車が残る街ではこの日にちなんだ発信が行われることがあります。街の交通の記念日としては、8月5日の「タクシーの日」と並べて眺めてみるのもおすすめです。

6月10日「路面電車の日」|語呂合わせから生まれた全国の記念日
路面電車そのものを対象にした記念日が、6月10日の「路面電車の日」です。こちらは出来事ではなく語呂合わせから生まれました。
「ろ(6)でん(10)」と1995年・広島の路面電車サミット
1995年(平成7年)、広島市で開かれた第2回路面電車サミットの場で、全国路面軌道連絡協議会が6月10日を「路面電車の日」と定めました。由来は「ろ(6)でん(10)」=路電の語呂合わせです。
路面電車サミットは、路面電車を持つ都市の関係者が集まって存続や活用のあり方を話し合う会議です。自動車に押されて路線の廃止が続いた時期を経て、街の交通としての価値を見直そうという流れのなかで記念日が生まれました。のちに日本記念日協会の認定・登録も受けています。
当日に各地で行われること
路面電車の日には、路線を持つ各地の事業者がイベントを開くことがあります。内容は年や地域によって異なりますが、たとえば次のようなものです。
- 車庫や工場の見学会
- ふだん営業に使わない車両の特別運行
- 記念乗車券やオリジナルグッズの販売
- 一日乗車券の割引や無料開放
高知の「電車の日」は5月2日|現役では日本最古の路面電車
「電車の日」という名前をそのまま使っている行事が、高知にあります。全国区の記念日ではなく、地域の交通事業者が続けている記念日です。
1904年5月2日、土佐電気鉄道の開業
1904年(明治37年)5月2日、高知で土佐電気鉄道の路面電車が走り始めました。当時としては全国で10番目の開業でしたが、その後も廃止されることなく走り続けたため、現役の路面電車としては日本で最も古い歴史を持つ路線とされています。
現在の運営会社はとさでん交通です。東西に延びる後免町〜伊野の約22.1キロと、南北の高知駅前〜桟橋通五丁目の約3.2キロを合わせた路線総延長は約25.3キロで、路面電車としては日本で最も長い区間になります。
2006年から続く記念イベント
この開業日にちなんで、5月2日を「電車の日」とする記念イベントが2006年から行われています。市民に長く使われてきた路線だからこそ、地元で祝う日として定着してきました。
日本で初めて電車が走ったのは1890年5月4日・上野公園
記念日とは別に、「日本の電車が始まった日」を知りたい方も多いはずです。その答えは、東京・上野公園にあります。
第3回内国勧業博覧会での公開運転
1890年(明治23年)、上野公園を会場に第3回内国勧業博覧会が開かれました。この会場内に数百メートルの軌道が敷かれ、東京電燈がアメリカから輸入した電車2両を走らせています。これが日本で電車が走った最初とされ、運転が始まったのは5月4日と伝えられています。
持ち込んだのは、のちに「日本のエジソン」とも呼ばれた技術者・藤岡市助です。数銭の料金を払えば来場者も試乗することができ、博覧会の目玉となる乗り物として多くの人を集めました。
ただし、これは会場のなかを走る展示物としての運転です。街の路線として人を日常的に運んだわけではないため、「日本初の電車」と呼ぶときにも少し注釈が要ります。

一般の道を走った営業運転の第1号は1895年の京都
一般の道路を走る電車としての営業運転は、1895年(明治28年)2月1日に京都電気鉄道が塩小路東洞院〜伏見京橋で始めたものが最初とされています。上野の公開運転から5年後のことでした。
「日本初の電車」という言い方が資料によってちがう日付を指すのは、次の三つの区切りが混ざるためです。
- 1890年5月4日/上野公園=博覧会の会場内で走った、日本で初めての電車
- 1895年2月1日/京都=一般の道路で始まった、日本で初めての営業運転
- 1903年8月22日/東京=首都で初めて路面電車が営業を開始(チンチン電車の日)
どれも「初」ですが、指しているものが別々です。日付が食いちがう説明に出会ったら、何についての初なのかを確かめると混乱せずにすみます。
同じ上野公園から生まれた「噴水の日」
内国勧業博覧会は、明治政府が国内の産業を育てるために繰り返し開いた催しです。じつは上野公園では、第1回(1877年)の会場に日本初の西洋式噴水がつくられ、その開幕日が8月21日の「噴水の日」の由来になっています。
噴水も電車も、同じ上野の博覧会から広まった「新しいもの」でした。二つの記念日が同じ公園を出発点にしていると知ると、上野の景色の見え方が少し変わってきます。

その8月21日には、もうひとつ「日本初」にちなむ記念日があります。1913年(大正2年)、東北帝国大学が3人の女性の入学を認め、日本で初めての女子大生が誕生した日です。噴水も電車も女子大生も、近代の日本が「初めて」を積み重ねていた時期の出来事でした。

電車・鉄道にまつわるそのほかの記念日
「電車の日」を探していると、似た名前の記念日にいくつも行き当たります。区別しておくと、日付の取りちがえを防げます。
10月14日「鉄道の日」
1872年(明治5年)10月14日に新橋〜横浜で日本初の鉄道が開業したことにちなむ日です。もとは1922年に鉄道省が定めた「鉄道記念日」で、国鉄の分割民営化を経た1994年(平成6年)に運輸省(現在の国土交通省)の提案で「鉄道の日」へと改称されました。
電車に限らず鉄道全体を対象にした日で、この時期には全国でイベントや記念きっぷの発売が行われます。もし「電車の日」として一つだけ挙げるなら、いちばん公的な位置づけにあるのがこの日です。
12月30日「地下鉄記念日」と10月1日「新幹線の日」
12月30日は「地下鉄記念日」です。1927年(昭和2年)のこの日、上野〜浅草の約2.2キロで日本初の地下鉄が開業しました。現在の東京メトロ銀座線にあたる区間で、当時は「東洋唯一の地下鉄道」として大きな話題になりました。
10月1日は「新幹線の日」です。1964年(昭和39年)のこの日、東海道新幹線が東京〜新大阪で開業しました。東京オリンピックの開会に間に合わせるかたちでの開業で、日本の長距離移動を大きく変えた出来事です。
5月20日「電気自動車の日」と混同しやすい理由
5月20日は「電気自動車の日」で、電車の記念日ではありません。株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーションが制定した日で、1917年に輸入された電気自動車「デトロイト号」を2009年5月20日に走行できる状態へ復活させたことにちなみます。
「電気で走る乗り物の記念日」という共通点から電車の記念日と取りちがえられることがありますが、対象は自動車です。ここまでに出てきた日付を並べると、次のようになります。
| 日付 | 記念日 | 対象 |
|---|---|---|
| 5月2日 | 電車の日(高知) | 路面電車(地域) |
| 5月20日 | 電気自動車の日 | 自動車 |
| 6月10日 | 路面電車の日 | 路面電車(全国) |
| 8月22日 | チンチン電車の日 | 路面電車(東京の営業開始) |
| 10月1日 | 新幹線の日 | 新幹線 |
| 10月14日 | 鉄道の日 | 鉄道全体 |
| 12月30日 | 地下鉄記念日 | 地下鉄 |
よくある質問
- 電車の日は何月何日ですか?
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全国共通の「電車の日」はありません。近い記念日として、8月22日の「チンチン電車の日」、6月10日の「路面電車の日」、高知で行われる5月2日の「電車の日」があり、鉄道全体では10月14日の「鉄道の日」が定められています。
- チンチン電車の日と路面電車の日は何がちがうのですか?
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成り立ちがちがいます。8月22日のチンチン電車の日は、1903年に東京で路面電車の営業が始まった出来事にちなむ日です。6月10日の路面電車の日は「ろ(6)でん(10)」の語呂合わせから1995年に定められた日で、こちらは路面電車そのものを広く対象にしています。
- 「チンチン電車」という呼び名はどこから来たのですか?
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路面電車が鳴らしていた鐘の音が由来です。発車や停車の合図として鳴らした「チンチン」という音がそのまま愛称になりました。車掌から運転士への合図だったという説明と、周囲に電車の接近を知らせるためだったという説明の両方があります。
- 日本で最初に電車が走ったのはいつですか?
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1890年(明治23年)5月4日、東京・上野公園で開かれていた第3回内国勧業博覧会の会場内とされています。会場内に軌道を敷いて2両の電車を走らせた公開運転で、街の路線として営業を始めたのは1895年の京都電気鉄道が最初です。
- 「電車の日」と「鉄道の日」は同じものですか?
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別のものです。10月14日の鉄道の日は、日本初の鉄道が新橋〜横浜で開業した日にちなむ全国的な記念日で、電車に限らず鉄道全体を対象にしています。一方の「電車の日」は全国共通の制定がなく、地域や対象ごとに別の日付が使われています。
- 5月20日は電車の日ではないのですか?
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5月20日は「電気自動車の日」で、対象は自動車です。電気で走る乗り物という共通点から混同されやすいのですが、電車の記念日ではありません。5月であれば、高知で行われる5月2日の「電車の日」が該当します。
まとめ
「電車の日」は、一つの日付に決まっていない言葉です。全国共通の記念日は制定されておらず、8月22日の「チンチン電車の日」、6月10日の「路面電車の日」、高知の5月2日「電車の日」、そして鉄道全体を対象にした10月14日の「鉄道の日」が、それぞれの立場で電車を祝う日として並んでいます。
そして記念日とは別に、日本で初めて電車が走ったのは1890年5月4日、上野公園の博覧会会場でした。公開運転が1890年、営業運転が1895年の京都、東京での営業開始が1903年。この三つの区切りを押さえておけば、資料ごとに日付がちがっても迷わずに読み解けます。
毎日あたりまえに乗っている電車にも、始まりの日があります。記念日の由来を知っていると、いつものホームで待つ数分が少しだけ違って感じられます。
8月のほかの行事や記念日もあわせてチェックしてみてください。

